ヘブル人への手紙 概論

執筆者

この書簡の中には差出人の名前はなく、執筆者については過去様々な議論が起きてきましたが、使徒パウロと考えるのが最も整合性があると言われています。書いてある内容がパウロのほかの書簡ときわめて似ていること、13:23でパウロの同労者テモテについて述べている事などが理由です。

受取人

ユダヤ教の影響から抜け出し切れないでいるヘブル人信者たち。ヘブルは「(川を)渡る」という意味があります。主を信じているのにまだユダヤ教から「渡って」来ることができていない人たちに対して、渡ることをうながしています。出エジプト記でヘブル人たちはエジプトを出て良き地カナンを目指しました。新約においては、目指すのは至聖所、神と人とが交わる場である、人の霊です。

執筆年代

10:11で祭司が儀式を行なっているいることが描写されているので、紀元70年の宮の破壊以前。おそらくパウロが最初の投獄のあと、ミレトに滞在にしていた頃?(第二テモテ4:20)。

執筆地

13:24に「イタリヤから来た人々」とあるので、イタリヤではありません。おそらくミレト(第二テモテ4:20)。

背景

当時の教会はまだまだユダヤ教の影響が強く残っていました(参照、使徒21:18-24)。使徒パウロは、そのようなユダヤ教の影響が色濃く残っているクリスチャンたちに、真のヘブル人として「川を渡る」、すなわちユダヤ教を出て真のキリスト信仰の立場に立ち、旧約聖書で「良き地」によって啓示されたキリストとの深い交わりに入るよう促す必要がありました。

内容

この書全体の要点を掴むのに重要なキーワードは「営所の外に出る」(13;13)、「幕の内に入る」(6:19)です。さらに、アンドリュー・マーレーが書いたヘブル書の注解書の書名は『至聖所』です。「営所」すなわち、宗教的なしがらみ一切から逃れ、「幕の内」に、さらに「至聖所」(9:3)、すなわち人の霊に戻って、キリストとの交わりに立ち返ることがヘブル書の最も重要な点です。

大まかに5つの区分があります。

第1区分

ほかの書簡と異なり、冒頭でいきなり神が御子において語られることが述べられています(1:1-3)。この書簡全体を通して、旧約からの引用はどの書、誰の言葉であるかは述べられておらず、聖霊の言葉として述べられています(3:7、9:8、10:15-17)。使徒パウロが差出人として自分のことを触れなかったのは、おそらく自分の語りかけも聖霊の語りかけであるという認識があったからだと思います。使徒ペテロは第二ペテロ3:15-16で、パウロの書簡を聖書の一部として取り扱っています。

第2区分

次の区分では、旧約聖書の中の物でユダヤ教徒が重要視している物を一つ一つ取り上げ、それらのものよりキリストの方がまさっていることを論証します(1:4-10:39)。

第3区分

3つ目の区分では、そのような旧約聖書の中の良い物よりさらにまさったお方であるキリストを受け取り、満喫する方法として信仰が語られます(11:1-12:29)。

第4区分

4つ目の区分ではそれらのことを踏まえ、教会生活で必要とされる事柄について語られます(13:1-19)。

第5区分


5つ目の区分では、ヘブル人たちのための祈りの言葉、使徒パウロの言葉を受け入れるようにとの懇願、使徒パウロがテモテと共に直接ヘブル人たちに会うことなどについて述べられて結ばれています。